
お店に入る時の、小さな勇気
高校生だった僕にとって、レンタルビデオ店の「あのコーナー」へ行くのは、ちょっとした冒険でした。入り口にかかっている、重たくて黒いカーテンをくぐる時、心臓が口から飛び出しそうなくらいバクバクしたのを覚えています。悪いことをしているわけではないのに、誰かに見られていないか、何度も後ろを振り返りました。あのアダルトコーナー特有の、少しひんやりとした空気と、独特の静けさは、今でも忘れられません。
手に取るまでの、長い時間
棚にはたくさんのビデオが並んでいましたが、すぐに手に取ることはできませんでした。まずは遠くから背表紙を眺めて、良さそうなものにあたりをつけます。それから、誰もいないことを確認して、サッとパッケージを手に取るのです。表紙に載っている女優さんの写真は、今のネットの画像みたいに鮮やかではありませんでした。少し色が薄くて、ざらざらした手触りの紙。でも、その一枚の写真から、どんな物語が始まるんだろうと、一生懸命に想像を膨らませていました。
裏側の説明文を読む楽しみ
パッケージをひっくり返すと、そこには小さな文字で内容の説明が書いてありました。「業界初!」とか「現役女子大生」といった、少し大げさな言葉が並んでいます。中には、女優さんの手書きのメッセージが載っているものもありました。拙い字で書かれた「頑張りました」という言葉を見ると、なんだかその子と秘密を共有しているような、不思議な気持ちになったものです。派手な写真よりも、その隅っこに書かれた小さな言葉に、僕はリアリティを感じていました。
レジまでの、短いけれど長い距離
「これだ」という一本を決めたら、あとはレジへ持っていくだけです。でも、ここが一番の難関でした。店員さんに中身を見られないように、他の映画のビデオと重ねてみたり、わざと平気な顔をして歩いたり。お金を払って、黒いビニール袋に入れてもらった瞬間に、ようやく深く息が吐けました。家に帰って、家族が寝静まるのを待つまでの時間は、宝物を隠し持っているような、切なくて幸せな時間だったと思います。


