完璧な挨拶よりも、震える声に惹かれる
僕は、新しい作品を観るとき、一番楽しみにしている場面があります。それは、本編が始まる前の「自己紹介」のシーンです。プロの女優さんなら、カメラを真っ直ぐに見て、笑顔でハキハキと自分の名前や趣味を言えるでしょう。でも、僕がこのライブラリ(図鑑)に集めているようなデビューしたての女の子たちは違います。カメラのレンズを直視できず、視線が泳ぎ、自分の名前を言うだけで声が震えてしまう。そんな「たどたどしさ」を見た瞬間、僕は一気にその子のファンになってしまいます。
自分の名前を言うだけで、精一杯な姿
なぜ、名前を言うだけのシーンにこれほど惹かれるのでしょうか。それは、そこに「嘘がない」と感じるからです。緊張して何度も言い直したり、スタッフの質問に小さな声で「はい……」と答えるのが精一杯だったり。その姿を見ていると、彼女が本当に普通の生活を送ってきた女の子で、今日この場所に来るまでにどれほどの勇気が必要だったのかを想像してしまいます。40代になって、世の中の表と裏をいろいろ見てきた僕にとって、その不器用で真っ直ぐな姿は、どんな豪華な演出よりも心に深く刺さるのです。
本当の姿
自己紹介で言葉に詰まってしまう時間は、僕たちにとって彼女の「背景」を想像する大切な時間でもあります。「普段はどんな仕事をしているんだろう」「友達には内緒でここに来たのかな」。そんなとりとめもない妄想が膨らむのは、彼女がプロになりきれていない「素人」だからこそです。上手に自分をアピールできない姿こそが、彼女が本当に実在する一人の女の子であることを教えてくれます。独身の夜、静かな部屋でそんな彼女たちの「本当の姿」に触れると、なんだか親戚のお兄さんのような、温かい気持ちで応援したくなってしまうのです。
3作目までに消えてしまう…
こうした「名前を言うだけで精一杯」な姿が見られるのは、本当に短い期間だけです。2作目、3作目と撮影を重ねるうちに、彼女たちは少しずつカメラに慣れ、話し方も上手になっていきます。それは成長として喜ばしいことですが、同時に、僕たちが愛した「あの時の危うさ」が消えていく寂しさもあります。だからこそ、一番最初の、まだ自分が何をされるのか分かっていないような、あの初々しい自己紹介をライブラリに深く刻んでおきたいのです。今夜もまた、名前を呼ぶ声が震えている一人の女の子の記録を、大切に図鑑の一ページに加えていこうと思います。

